機械仕掛けの豚

クソみたいな世の中だと憂う前に、目の前のものを愛そう。

六本木へ

朝起きると、雨の音が聞こえた。
なんてこった。
イリュージョニスト」という映画を観に出かけようかと
考えていたのだけど、いきなり心が折れそうになった。
どーしよかなーと思いながらネットで映画館の場所を確認する。
六本木ヒルズでの上映はすでに終わっていたけど、
その近くにある小さな映画館で上映しているようだ。


六本木か。
ええと。
横須賀線と山手線と東京メトロ日比谷線を乗り継いでいくのか。
メンドクセエじゃねえか。
もうちょっと楽な行き方はないのか。
ないのね。わかったよ。
意を決して行くことにする。


プリンタもスマートフォンもないので
調べた情報を暗記する。
頭の中に最寄の駅と路線を記憶していればいいんだろ。
と思ったのだけどやっぱ無理だったので、
手帳に駅と路線名と映画館の簡単な地図を書いた。


折りたたみ傘と手帳をカバンに放り込んで、昼の12時半頃にうちを出る。


切符を買う。
自動改札を抜ける。
ええと何番ホームだ。
どっち方面だ。
なに線だったっけ。
ええっと。
出口はどっから出りゃいんだっけ。
ウロウロしつつもなんとか駅を間違えずに六本木にたどり着く。
乗り換えでも全然待たずに電車が来るあたりはさすが東京。
でも思いの他早く着いちゃったので、ぶらついて時間をつぶそうと思ったら、
雨が降ってきたのでやめて、
一時間ほど映画館のロビーでボケーとしていた。


そして「イリュージョニスト」を観る。
味わいのある、素晴らしい色彩は期待通りだ。
まるで絵本をめくっているかのようにきれいな色彩の絵が続く。
そして音楽もいい。


物語は単純だ。
年老いた手品師と、言葉の通じない少女の交流が主軸。
抑揚がないと言えばない。
だけど、登場人物の心境や時代背景を想像すると、
単純な物語の中にも深みが増してくる。
そういう意味では、観る側が一歩踏み込んで想像を膨らませないといけない映画だと思う。
完全に大人向けのアニメ。


これ、雨の日なんかに家で一人で観るといいかもしれない。
そして今より歳をとってから観たらもっといいかもしれない。


映画を観終わったら、夕方の五時だった。
すぐに帰るのもアレなので、
せっかくだから六本木ヒルズに行ってみっかと思う。
せっかくだから展望台に上ってみっかと思う。


行ってみたら、展望台は52階だった。
でも、エレベーターは超高速だ。
ほんの数秒で着く。
エレベーターに乗っている時間があまりにも短いので
そんなに高くないんじゃないのと思ったけど、
52階は52階ださすがに高い。



なんつーか、
改めて見るとビルの密集度が半端じゃない。
まるででっかいレゴみたいだなあ、と思う。
あっちのビルをもいで、
こっちのビルにくっつけてっと。
そんなことができそうなくらいに見える。


窓際に立って下を見下ろす。
ワー。
人がコメのようだ。
ワー。タケー。スゲー。
と一通り高さを堪能してから後ろを振り返ると、カップルが
「どいてほしいんですけど」
と言わんばかりに立ってた。
ああ。すみません。
邪魔なのね俺が。


周りを見ると見事にカップルだらけ。
カップル、カップル、カップル、
親子連れ、
カップル、カップル、カップル、カップル、
女の人のグループ、
カップル、カップル、カップル、カップル。
おやおやまあまあ。
一人で来ているのはマジで俺だけみたいだ。
いいけどね別に。
別にいいけどね。


展望台の下にある美術館に寄ってから帰った。


六本木の街には、
色気の漂う大人なお店がたくさん並んでいた。
夜になると一気に色気が濃くなるんだろう。
夕暮れ時は、まだ本気を出していなかった。