機械仕掛けの豚

クソみたいな世の中だと憂う前に、目の前のものを愛そう。

ロボットくんの最期

海岸に、ロボットが打ち上げられておりました。
もはや動力は、わずかに残るばかりでありました。
ロボットは横たわったまま、宙を見上げておりました。
吹きつける風の音と、打ち寄せる波の音を聞きながら、
回路に残った鮮やかな記憶を思い出しておりました。



やがて鮮やかな記憶はゆっくりとにじみ始め、
それから黒くなっていきました。
記憶が真っ黒になった瞬間、ロボットは動かなくなりました。



潮風に晒されて、ロボットはゆっくりと錆び付いていきました。
体の一部は朽ち果て、一部は波にさらわれ、一部は砂に埋もれていきました。



それから1000日くらいが経ったある日、少年とその父親が海岸を歩いておりました。
少年は朽ちたロボットに気づいて、見て、ロボットが死んでいるよ、と言いました。
それを聞いた父親は、機械は死んだとは言わないよ、
あれはもうただの壊れたガラクタだよ、と言いました。
ふうん、と少年は言いました。
少年とその父親は、そのままロボットの横を通り過ぎていきました。



次の日、少年がスコップを持ってロボットのところにやってきました。
そして少年はロボットの横に穴を掘り始めました。
暗くなるまで続けましたが、ちっぽけな穴しか掘ることができずにおりました。



そのまた次の日、少年がまたスコップを持ってやってきました。
前の日に掘った穴は、打ち寄せる波でかき消されておりました。
少年は、また穴を掘り始めました。
暗くなり始めた頃、少年の父親がやってきて、
なにをしているんだい、と言いました。
ロボットのお墓を作ってあげているんだよ、と少年が言いました。
危ないからやめなさい、と父親は言って、少年の持っていたスコップを取り上げました。
返してよ、と少年は言いましたが、そんなことをしておまえが怪我をしたらどうするんだ、と父親は言って、少年の手を引いて去っていきました。



そのまた次の日、少年がまたロボットのところにやってきました。
スコップは取り上げられちゃったんだ、
そのかわりこれを持って来たよ、
そう言って、朽ちたロボットのそばに花を置きました。



そして少年は去っていきました。