道の向こうの視界の先に薄紫色の空があって、
そこに山とビルの外形に沿った形の
真っ黒い切り絵が貼り付いてる。
空の一部に光の亀裂が入って、
その裂け目から月がゆっくりと、
雲を散らしながら顔を出す。
ああ綺麗だなあ、と思うんだけど。
だけど、湿気を含んだ風は生温くて、
虫は飛び交って顔や頭にバチバチと当たってきて、
なんなら口に入りそうになるし実際入ったことあるし、
犬のクソ踏みそうになるし、
鹿の群れが真横を走って行って怖いし、
綺麗だなあ、はすぐに搔き消される。